名古屋高等裁判所 昭和49年(ネ)618号 判決
控訴人
豊橋市
右代表者市長
青木茂
右訴訟代理人
佐治良三
外二名
被控訴人
金喜松
右訴訟代理人
瀬邊勝
外二名
主文
原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一審第二審とも被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
被控訴人の請求原因(一)の事実を認定できることについては、原判決がその理由一において認定説示するとおりであるから、ここにこれを引用する。
しかして請求原因(二)の事実及び同(三)の事実中、下蝉川橋が控訴人管理にかかる公営物であることについては当事者間に争いがないので、まず控訴人の右橋の管理についての瑕疵の有無につき検討するに、〈証拠〉を総合すると次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故が発生した下蝉川橋は、昭和三四年に築造され同四四年に上部が改築された幅3.25メートル、長さ15.7メートルの木橋であつたところ、昭和四七年七月一三日附近住民からの通報により調査の結果、橋脚沈下の事実が認められたので、控訴人市の建設部道路維持課において、重量制限標識設置基準に則り、総重量が三トンより重い車の通行止めを示す重量制限標識を同橋の両側に設置した(その状況につき乙第二号証の一参照、右標識の設置は、一寸角の檜角材に標示板の上下の穴に各二本三寸釘を打ちこみ、これを八の字形に開き曲げて固定したうえ、右角材を橋の各向つて左側の親柱に釘でニケ所打ちつけ、更に八番鉄線で二ケ所しばりつけるという方法によつた)。
(二) 道路維持課ではかかる標識の破損の有無等調査のため、三・六・九・一二月と年四回巡視する取扱いであつたところ、本件標識については、同年九月一六日の二〇号台風通過の翌日に担当職員が調査に赴いたが異常はなく、以後本件発生まで右標識を損壊する可能性のある自然災害の発生はなかつた。
(三) 本件事故発生直後の同年一二月九日午後五時半頃、所用のため同橋を通行しようとした中神敏行は右岸側(事故車両の進入口側)の橋欄干の向つて左側親柱に前記標識が設置されているのを確認し、事故車両の運転手を探したが見当らず、最寄派出所へ事故の通報をなし帰宅したが、その後連絡により同日午後六時四〇分頃現場へ到着した藤下篤夫ら市の職員が標識の状況等につき調査したところ、左岸側(事故車両出口)標識の支柱は折れ、事故車両の横の川岸中腹にあり標示板は見当らず、右岸側標識の支柱はあつたものの標示板はなく、支柱には標示板が人為的に新にもぎとられたような生々しい痕跡があつたため捜索したところ、右岸下流約三〇メートルの堤防草むら中に標示板があつた(その状況は乙第二号証の八のとおり)のを発見した。
以上の事実が認められ、右認定に抵触する〈証拠〉は前掲各証拠と対比して到底措信できず、当審における検甲第一号証も(右録音テープ中の杉原正治の供述するところによつても、同人は右橋の右岸側即ち事故車両進入口にあつた標識の状況については確たる認識を有していなかつたものと認められる。)、右認定を左右するに足りない。
以上のとおりであつて、本件事故発生時には、事故車両通入口の右岸側重量制限標識は異常なく設置されていたものであるところ、事故発生後市の担当職員が現場へ到着するまでの間に他人(本件弁論の全趣旨に徴すると、この者が事故車両運転手又は被控訴人側関係者乃至これらの者らからその旨を受けた者ではないかとの疑いが濃い。)の手により人為的に標示板が取りはずされて遺棄されたものと認められ、したがつて本件事故は、事故車両運転手吉山鐘雄において右標識を無視若しくはこれを看過して橋内に進入し通行しようとしたことに基因する(右車両の大きさ、総重量等が別紙目録記載のとおり、事故当時これに約八立方メートルの土砂(一立方メートルあたり約1.8トン合計約14.4トン)を満載していたことは、〈証拠〉により認められる)ものと認めうべく、控訴人の橋の管理に瑕疵があつたとの事実は、これを認めることができない(なお付言するに前認定のごとき下蝉川橋の状況からすれば、〈証拠〉にもあるごとく、同橋をダンプカーに土砂等を満載して通行することが極めて危険なものであることは、免許を有する自動車の運転者であれば、一見してこれを予見できるものと認められるにかかわらず、道交法上の大型自動車にあたる本件事故車両に土砂を満載し、法定の総重量二〇トンを超える状況にあることを自覚していたのに、漫然と同橋内に進入し、これを崩壊させ、公の営造物を損壊した被控訴人方運転手の所為は、各種法規違反の点を含め、無謀な通行に基く橋梁破壊行為として厳しく非難さるべきものといわねばならず、このような違法行為を犯しながら、逆に道路管理者たる地方公共団体に対し損害賠償を訴求する如きは、全く理由のない濫訴というべきである。
叙上の次第であるから、控訴人の橋の管理に瑕疵のあることを前提とする被控訴人の本訴請求は、その前提を欠き、その余の判断をするまでもなく失当として棄却を免れないものというべきである。
よつて、これと異る原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決中控訴人敗訴の部分を取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(植村秀三 上野精 大山貞雄)
別紙 目録
三河一さ六一九一
普通貨物自動車 (ダンプカー)昭和四五年式
最大積載量 一〇五〇〇キログラム
車両重量 九三〇〇キログラム
車両総重量 一九九六五キログラム
長さ 七三九センチメートル
幅 二四六センチメートル
高さ 二八八センチメートル